
痛みと眠れなさ、気持ちの落ち込みが重なる背景
長引く痛みで眠れない夜に気持ちまで沈むのは、痛みで眠りがさまたげられ、寝不足が痛みの感じ方と気分の両方にひびく悪循環が起こるためです。この記事では、痛みと眠れなさ、心への影響がからみ合うしくみと、ご自身で決めつけずに医師へ伝えるための記録のしかたをまとめます。夜中に目が覚めて先のことが不安になるときも、体と心の変化を切り離さずにとらえておくと、受診のときの助けになります。
この記事の要点まとめ
- 長引く痛みで眠れず寝不足が続くと、痛みの感じ方や気分にひびき、おたがいに関わり合うことがあります。
- 気分の落ち込みや不安、くらしへの影響が続くときは、痛みや眠りのようすとあわせて医師に相談できます。
- 痛み・眠り・勤務時間・気分の変化を数日書きとめ、メモにまとめて受診のときに伝えると役立ちます。
慢性痛で眠れないと、なぜ気持ちまで沈むのか?
痛みで眠りがさまたげられ、寝不足になると痛みを強く感じやすくなり、気分までゆらぐという悪循環があるためです。慢性的な腰の痛みがある方では、不安や気分の落ち込み、痛みへのこわさがよくみられると報告されています1。心のケアを受けても眠りの悩みは変わりにくい場合があることも示されており2、痛みと眠り、気分の変化は切り離さずに一緒に考えることが大切です。
痛みが寝つきを妨げ、夜中に目を覚まさせる流れ
日中は仕事や家事で気が紛れていても、夜に布団へ入って周囲が静かになると、痛みや足のしびれへ意識が向きやすくなります。横になったときの姿勢や寝返りの動作で腰や脚に負担がかかり、寝つきが悪くなったり夜中に何度も目が覚めたりする流れが生じます。こうした中途覚醒が重なることで、休まった感覚が得にくくなります。
痛みに敏感な状態と眠りの不調、気分のゆらぎが重なる悪循環
痛みに対して神経が敏感になった状態では、光や音にも過敏になったり、疲れや眠りの不調、集中しにくさを伴ったりすることが少なくありません3。眠りが浅い日が続くと日中の心の余裕がなくなり、いら立ちや気分の落ち込み、痛みへのこわさが強まることもあります。そうした気分の緊張が、さらに寝つきを妨げるという循環が回り始めます。
交替勤務や不規則な生活が重なるときに起こること
夜勤や交替勤務などで生活リズムが不規則な場合、体内時計の乱れによる眠りにくさと痛みによる不眠が重なります。ご自身では「勤務形態のせいなのか、痛みのせいなのか」を区別しにくく、悩みが深まりがちです。受診時はどちらの影響かを一人で決めようとせず、勤務時間と痛みの両方を医師へお伝えいただくことが判断の手がかりになります。
ポイント
痛みで眠れない日が続くと、痛みの感じ方にも気分にもひびくため、生活のリズムも含めて医師へ伝えておくことが大切です。
慢性痛が続くと、どんな精神的影響が出やすい?
気分の落ち込みやいら立ち、以前楽しめたことへの関心の低下、不安や孤独感などが現れることがあり、これらは慢性痛が続く際によくみられる変化です。身体の痛みと心のつらさは同時に起こりやすく、互いに影響し合うと考えられています。性格や気力の問題と捉えず、身体からのサインとして整理していくことが大切です。
家族へのきつい言い方や仕事の確認漏れも、精神的影響のサインになりうる
心の負担の例としては、理由もなく気分が沈む、趣味を楽しめない、先のことが強く不安になる、といった変化があります。また、痛みをまわりにわかってもらえない孤独感や、寝不足も重なって集中しにくくなることから、仕事での確認もれが増えたり、家族へきつい言い方をしてしまったりすることもあります。
「気持ちの問題を話すと痛みが軽く扱われる」は誤解
「眠れないことや気分の落ち込みを話すと、身体の痛みまで気のせいだと扱われるのではないか」とためらう患者様もいらっしゃいます。しかし、長引く痛みは身体と心の両面から総合的に診る対象であり、不安や抑うつの有無は痛みの背景を理解する手がかりになります。気分の状態を共有することは、痛みの治療方針を組み立てるうえでも役立ちます。
うつ病と体の痛みの関係を知っても、病名は自分で決めない
気分の落ち込みと体の痛みは互いに影響し合うと考えられていますが、病名をご自身で決めることは避けてください。痛みで眠れない日が続くと気分が沈みやすくなり、気分の緊張がさらに眠りや痛みにひびくという悪循環が起こることもあります。インターネットの検索結果だけで病名を決めつけると必要な検査や処置が遅れる懸念があるため、医師による評価を受けることが推奨されます。
自己判断せず医師に相談したほうがよいのはどんなとき?
眠れない夜や気分の変化が続き、仕事でのミスや家族との関係に影響が出ているなら、痛みと併せて医師に相談してよい段階です。痛みを和らげる処置と、眠りや気分を支える方法を組み合わせて検討することで、日常生活の落ち着きを取り戻す手がかりになります。
受診を考えたい目安と、早めに受診したいサイン
週に何度も痛みで目が覚める、日中の集中力が落ちて業務に支障が出ている、家族から「最近つらそう」と指摘されたといった場合は受診をご検討ください。なお、安静にしていても夜間に強まる腰痛、原因不明の体重減少や発熱、脚のしびれや力の入りにくさがある場合は、背骨や内臓の別の疾患が関わる可能性があるため早めの受診が求められます。気持ちが強く追い詰められている場合も、我慢せず速やかに医療機関へご相談ください。
痛み・眠り・気分はどの診療科に相談できる?
痛みの原因を調べたり、痛みをやわらげる処置を受けたりするのはペインクリニック内科や整形外科、体全体の不調や生活習慣の病気も含めて確かめるのは内科で相談できます。これらの科では、痛みと一緒に「夜中に目が覚める」「気分が沈む」といった状態をそのままお伝えいただいてかまいません。気分の落ち込みや眠れなさが強く、専門のケアがよいと判断されたときは、心療内科や精神科への相談を医師と一緒に考えていく流れになります。
痛みを和らげる治療と、眠りや気分を支える方法の組み合わせ
痛みの治療では、急な痛みか長引く痛みかで薬の効き方がちがうことをふまえ、経過を見ながら飲み薬の量や種類、組み合わせを調整していきます。飲み薬だけでなく、痛む部位の神経の近くに麻酔薬を注射する神経ブロック注射や、押すと痛む筋肉の部位に行うトリガーポイント注射も選べます。電気の刺激で薬を皮膚からしみこませる処置や低周波治療器も含め、患者様のご意向とあわせて検討します。
心のケアでは、つらさを無理に消そうとせず受け止めながら、大切にしたいことに沿って行動していく心理療法(ACT)が、長引く痛みと気分のつらさを軽くすることにつながる可能性が報告されています2。体の状態に合わせて無理のない範囲で体を動かす運動療法を、痛みの治療と組み合わせて考えることもあります。
注射や薬では、ふらつきや一時的なしびれなどが出ることがあり、効き方にも個人差があります。心理的な支援がカウンセリングなどの自由診療として行われる場合、一般的には公的医療保険が使えず、費用は医療機関ごとに案内されます。また、つらい記憶や気持ちを振り返る中で、一時的に心の負担や疲れを感じることがあります。
短い診察時間で、痛み・眠れなさ・気持ちをどう伝えればよい?

受診前に数日分の症状と生活リズムを記録し、要点を1枚のメモにまとめて医師へ渡すと、短い診察時間でも状況が伝わりやすくなります。記録は自己診断をするためではなく、医師が身体と生活の両面から総合的に判断するための材料として活用いたします。
受診前に記録しておきたい5つの項目
診察室で慌てないよう、受診前の3〜5日間ほど、以下の5項目をスマートフォンのメモや手帳に書き留めておく方法があります。
- 痛む場所と強さ・どんなときか:腰や脚など痛むところ、10段階での強さの目安、寝返りや立ち上がりなど痛みが強まる動き
- 眠りのようす:布団に入った時刻、寝つくまでの時間、夜中に痛みで目が覚めた回数
- 仕事と生活リズム:日勤・夜勤などの働く時間帯、休みの日の過ごし方
- 薬とお酒:いま飲んでいる処方薬や市販の痛み止め、寝酒をするかどうか
- ふだんの生活への影響:仕事での確認もれ、家事のしづらさ、家族へのいら立ちなど
1枚のメモにまとめるときの書き方の例
医師に見せるメモは、箇条書きで簡潔にまとめると確認がスムーズです。気分の変化も「事実」として並べて書くことで、言葉にしづらい悩みも伝わりやすくなります。
| 整理する項目 | メモの記入例 |
|---|---|
| いつから・どこが | 半年前から右腰〜太もも裏が痛む(夜は10段階で6〜7) |
| 眠りの変化 | 夜勤のない日も寝つきに1時間以上かかり、夜中に2〜3回目が覚める |
| 気分の変化 | 睡眠不足でイライラしやすく、家族にきつく当たってしまう。趣味も楽しめない |
| 一番困っていること | 日中の眠気で仕事の確認漏れが増え、業務を続けられるか不安 |
| 医師に聞きたいこと | 痛みを和らげて眠れるようにする方法と、今後の見通しを知りたい |
上記のようにA4用紙半分やメモ帳1枚程度にまとめて受付や診察開始時に渡すと、話し忘れを防げます。
以前の検査で残った疑問は、質問として持参する
過去に整形外科などでレントゲンや画像検査を受け、「骨に大きな異常はない」と言われたものの痛みが続いている場合、その疑問もメモに書き添えてください。「いつ・どの検査を受け、どう説明されたか」「自分の実感とどこが結びつかないか」を共有することで、筋肉や腱、神経の過敏さなど別の角度から原因を探る手がかりになります。他院での診断について別の医師の意見を聞きたい場合も、これまでの経過と検査結果を持参すると相談がしやすくなります。
ポイント
痛み、眠り、働く時間、気分の変化を1枚のメモにまとめて持っていくと、短い診察でも医師と治療の進め方を一緒に考えやすくなります。
よくある質問
Q. 心因性疼痛とは何ですか?
A. 検査で体に異常が見つからない、または見つかった異常だけでは説明がつかない痛みのうち、心や暮らしのストレスが深く関わっている状態を指す言葉です。ただし「痛みを作っている」「気のせい」という意味ではなく、ご本人は実際に強い痛みを感じています。いまは体と心のいくつもの要因がからみ合うものと考えられており、痛みをやわらげる処置とストレスへのケアの両面から、医師が進め方を決めます。
Q. うつ病で眠れないときはどうしたらいいですか?
A. 自己判断で市販の睡眠薬やアルコール(寝酒)に頼ることは避け、まずは主治医や医療機関へご相談ください。寝酒は一時的に寝つきをよくしても、夜中に目が覚めやすくなって眠りが浅くなり、ぐっすり眠った感じが得にくくなります4。痛み止めや抗うつ薬、睡眠を助ける薬の調整など、飲んでいる薬との組み合わせもふまえて医師が個別に判断いたします。
ふだんの工夫としては、毎朝起きる時刻をそろえる、眠れないときは無理に布団にいないで一度起きる、夜は強い光やスマートフォンの画面を避ける、といった方法があります。眠れない状態が2週間以上続くときや、気分の落ち込みが強いときは、早めに受診してください。
Q. 夜勤明けに頻尿になったり尿検査で指摘されたりするのも、不眠や痛みと関係がありますか?
A. 夜勤で生活リズムが乱れると眠りや体調に影響が出ることはありますが、頻尿や尿の異常の原因はさまざまで、不眠や痛みだけで説明できるとは限りません。糖尿病や腎臓、ぼうこうなどの病気が隠れていることもあるため、ご自身で決めつけないことが大切です。痛みの相談とあわせて、内科で血液検査や尿検査を受け、体の状態を確かめておくことをおすすめします。
参考文献
1. Vaillancourt N, Montpetit C, Rosenstein B et al. Aquatic therapy compared to standard care for chronic low back pain: a randomized controlled trial. Pain management. PMID: 41527881, DOI: 10.1080/17581869.2026.2613633
2. Rickardsson J, Gentili C, Holmström L et al. Internet-delivered acceptance and commitment therapy as microlearning for chronic pain: A randomized controlled trial with 1-year follow-up. European journal of pain (London, England). PMID: 33460240, DOI: 10.1002/ejp.1723
3. 中枢神経感作とは何か? 原因不明の様々な症状に立ち向かう疫学研究から見えてきたこと. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/31/1/31_310104/_article/-char/ja/
4. 睡眠と休養|和光市公式ホームページ. https://www.city.wako.lg.jp/kenko/1004192/1009475/1004654.html
5. Mathew A, Doorenbos AZ, Jang MK et al. Acceptance and commitment therapy in adult cancer survivors: a systematic review and conceptual model. Journal of cancer survivorship : research and practice. PMID: 32949353, DOI: 10.1007/s11764-020-00938-z
藤田保健衛生大学 麻酔・周術期管理医学講座
大同病院 麻酔科部長を経て、2023年うえの台いたみと内科のクリニック開設
上記の他に、日本ペインクリニック学会指定研修施設、内科・小児科・皮膚科・ペインクリニック医院に非常勤医師として勤務
日本専門医機構認定 麻酔科専門医
日本麻酔科学会認定 麻酔科指導医
厚生労働省 麻酔科標榜許可(麻酔科標榜医)
厚生労働省 緩和ケア研修修了医
日本臨床栄養代謝学会 TNT研修修了医
臨床研修指導医
【所属学会】
日本麻酔科学会
日本臨床麻酔学会
日本ペインクリニック学会
日本疼痛漢方研究会
日本臨床栄養代謝学会
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